東京高等裁判所 昭和25年(ネ)1216号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
被控訴代理人は請求原因として被控訴人は製材業を、控訴人は土木建築請負業を各営んでいるものであるが、被控訴人は昭和二十四年六月十二日現在において控訴人に対し木材売掛代金の残金二万一千六百七十二円五十銭の債権を有していたので、同年七月二十一日附で同月二十五日までに右金員を支払うよう催告をしたけれども、控訴人はこれが支払をしないから控訴人に対し右金員及びこれに対する同年七月二十六日以降完済に至るまで年六分の割合による損害金の支払を求めるため本訴に及んだと陳述し、控訴人の抗弁に対し、控訴人は原審における口頭弁論期日には一回も出頭せず且つ何らの防禦方法をも提出しないで当審に至つてはじめて右抗弁を提出したものであつて、右は故意により時機に後れて提出せられた防禦方法で、これによつて訴訟の完結を遅延せしめるものであるからこれが却下を求める。なお該抗弁事実についてはこれを争う。また本件控訴は控訴人が訴訟の完結を遅延させる目的のみでこれを提起したものであることが明瞭であるから、控訴人に対して民事訴訟法第三百八十四条の二第一項による制裁を課せられたい。と述べた。
控訴代理人は答弁として被控訴人の主張事実は全部認めると述べ、更に抗弁として控訴人は昭和二十四年五月初旬訴外日本発送電株式会社から請負つた同会社社宅建築工事の材料に使用するため、被控訴人から本件木材を購入したのであるが、被控訴人から送附せられた木材の三分の二は建築用材に適しない不良品であつたので、被控訴人に対しこれが取替方を要求し、被控訴人もその瑕疵のあることを認め、同年六月中旬新木材を送附して来たけれども、これまた建築用材に適しないものであつたため、右訴外会社監督員からその使用を拒絶せられた。控訴人は右請負契約の履行のためには、他より木材を購入する外なかつたので、高価をもいとわずこれを購入し、右新規購入の木材代金額と前記不良木材の処分による売得金との差額七万円を支出しそのうえ、右木材の取替及び新規木材購入等のため二十日間大工を休業せしめ、この間の日当金一万六千円を支給し、新規木材購入のため金五千円の経費を要し、合計金九万一千円の損害を被つたが、これは被控訴人の契約の不履行によつて生じた損害であるから、被控訴人においてこれを賠償すべきものである。そして右損害金は被控訴人において遅くも同月末日までに支払うべきものであつたから、控訴人は同年十月中旬被控訴人に対しその支払を求め且つ被控訴人において金二万一千六百七十二円五十銭の木材代金の残債権ありと主張するならば、これとその対当額において相殺する旨の意思表示をしたから本件債務は消滅に帰した。仮りに被控訴人に対し右相殺の意思表示がなかつたとすれば、控訴人は本訴においてこれが意思表示すると述べた。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人が控訴人に対し昭和二十四年六月十二日現在において本件木材売掛代金の残金二万一千六百七十二円五十銭の債権を有していたことは当事者間に争がない。控訴代理人は当審において前記事実摘示のような相殺の抗弁を提出し、その事実を証するため証人清水隆外二名及び控訴会社代表者三輪邦光の各喚問を求め、被控訴代理人は右抗弁並びに証拠の申出は時機に後れて提出せられた防禦方法であるから却下せられたい旨申立てたので、はたして控訴人の右防禦方法が故意または重大な過失により時機に後れて提出せられたものであつて且つこれがために訴訟の完結を遅延せしめるものであるかどうかについて審按するに、原審における昭和二十五年三月二十九日の第一回口頭弁論期日は控訴会社代表者三輪邦光から事業上の出張を理由に、同年五月十三日の第二回口頭弁論期日は同人の病気を理由に、各期日変更の申立があつたためそれぞれ変更せられ、同月三十一日の第三回口頭弁論期日には右控訴会社代表者は無断不出頭のところ、原裁判所は職権をもつて本件を谷村簡易裁判所の金銭債務臨時調停に付す旨の決定をなし、本件訴訟手続は右調停事件完結に至るまで中止せられることとなつたが、右調停事件は同年九月九日右簡易裁判所の調停委員会において調停をしない旨の決議があつた結果、本件訴訟手続が続行せられることとなり、口頭弁論期日を同年十月十一日と指示せられたが、右控訴会社代表者は同期日にも無断出頭せず、原裁判所は出頭した被控訴代理人に弁論を命じたうえ、弁論を終結し、次いで同月二十五日被控訴人勝訴の判決をした。控訴代理人はこれに対し当裁判所に控訴を提起し、昭和二十六年二月二十六日の当審における最初の口頭弁論期日に、本件木材には瑕疵があつて取引の目的に供することができなかつたため、控訴人は金九万一千円の損害を被つたから被控訴人に対し昭和二十四年十月中右損害賠償債権と本件木材代金債務とをその対当額において相殺する旨の意思表示をなした旨の抗弁を提出し、これに対し被控訴代理人は右抗弁は故意により時機に後れて提出せられた防禦方法であつて、これがために訴訟の完結を遅延せしめるものであるから却下せられたい旨の申立をなし、且つ右抗弁事実を否認する旨を述べたところ、控訴代理人は弁論の続行を求め、その続行期日である同年四月十一日の口頭弁論期日において、右抗弁事実を補足して前記事実摘示のような事実を主張し且つ前記のように証拠の申出をなし、被控訴代理人は右抗弁並びに証拠申出は時機に後れた防禦方法であるから却下せられたい旨申立て且つ該抗弁事実を争う旨陳述したことは本件記録に徴して明らかなところである。そして右原審以来の訴訟の経過、並びに控訴人の抗弁の趣旨に徴すれば控訴人においてその抗弁として主張するような事実があつたとすれば原審第一回の口頭弁論期日当時すでにこれを提出することができたにもかかわらず、控訴会社代表者は原審における各口頭弁論期日に出頭せず、また期日に出頭しないでも陳述したものとみなさるべき抗弁事実を記載した答弁書その他の準備書面をも提出しないで六箇月余を徒過し、当審に至つてはじめて右抗弁を提出したものであるから、該抗弁は故意または重大な過失により時機に後れて提出せられた防禦方法であると認めなければならない。しかし被控訴代理人は右抗弁事実に対し直ちに認否をしたのであるから控訴代理人においても直ちに書証もしくは在廷証人によつて右抗弁事実を証することができたとすれば、右抗弁の提出によつて訴訟の完結を遅延せしめるものとは謂いえないのであるが、控訴代理人は右抗弁事実を証するため証人及び控訴会社代表者の喚問の申出をなしたのであるから、右抗弁の提出そのものは訴訟の完結を遅延せしめないとも考えられないこともないが、もし右抗弁の提出を正当とするにおいては、これが立証をも許容しなければならない筋合であるから、該抗弁の提出並に証拠の申出は相俟つて故意または重大な過失により時機に後れて提出せられた防禦方法であつて、これがために訴訟の完結を遅延せしめるものとして却下するを相当とする。
そして被控訴人が製材業を、控訴人が土木建築請負業をそれぞれ営んでいるものであること、被控訴人が控訴人に対し昭和二十四年七月二十一日附をもつて同月二十五日までに前記木材売掛代金の残金二万一千六百七十二円五十銭を支払うよう催告したことはいずれも当事者間に争のないところであるから、控訴人は被控訴人に対し右金二万一千六百七十二円五十銭及びこれに対する昭和二十四年七月二十六日以降完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あるものと謂わなければならない。
よつて被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきであり、右と同旨に出でた原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。なお前掲本訴の経過によつては控訴人が訴訟の完結を遅延させる目的のみで控訴を提起したものとは認めがたいから、同法第三百八十四条の二第一項の金銭の納付はこれを命じない。
(裁判官 柳川昌勝 浜田宗四郎 菅野次郎)